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フジロック備忘録:3

更新日:2022年7月29日

2日は厳しめな雨予想だった。が、昼前に会場に着いたタイミングでは晴れ。


この日はお目当てのアーティストも特になく、ラインナップ的には夜から出勤して朝までコースでも良かったんだが、そうは問屋が卸さなかった。13時からJリーグ苗場支部という集まりがあったからだ。何が悲しくてここまできて桃太郎を唄わなきゃならんのか、やれやれと思いながらミッションを全力でこなし、おれのフジロック2日目が始まった。チャー&チャボを半分だけ見た後、散歩へ。


始まったら……そう、始まりはいつも雨、だ。



15時ごろから大粒の雨がボタボタボタニカルと降り始めた。その調べに誘われてShohei Takagi Parallela Botanicaなるユニットが演奏しているジプシー・アヴァロンへ。 どうでもいい話だが、おれはボタニカル柄が好きだ。これも何かの縁だろう。心地よいジャジービートに揺られながらチルアウトした。


必ず雨が降ると言われているフジロックなので、雨具の用意は完璧と言っても良かった。忘れさえしなければ、だ(きのう忘れた)。だが、1日目で気付いてしまった事がある。本気装備として購入したコロンビアの新作レインパーカーダダ被り問題である。既に10人はすれ違った。おれ個人としては「一緒ですねー」と喜ぶ気持ちより「被りかあ」という残念な気持ちが強い。しかしこれは半分自分のせいで、アウトドアブランドの新作を買えばそうなるのは自明の理だった。思慮とバイブスが至らなかった。


結果どうしたか。着なかった。このフジロック2019で、おれは一度もそのレインパーカーを着なかったのだ。愚者の選択である。


実はもう1着、夜の防寒用としてコロンビアのナイロンパーカーを持ってきていた。原宿にあるキネティクスというセレクトショップとの限定コラボものだ。生産数が少なく、まず普通には出回っていない。何よりファブリックがめちゃくちゃカッコいい。アゲハ蝶と食虫植物をモチーフにしたボタニカル柄だ。2018年のプロダクトだけど、どうしても欲しくて四方八方手を尽くしてようやくモノにしたアイテムだ。因みに都市生活を想定されてリリースされたアイテムなので撥水加工はしてあるが防水性能は殆どない。間違っても大雨の日に長時間着ていいアイテムではない。


着た。



愚かなおれは、防水を捨て「被りなし」を選んだのだ。そしてとうとう最後まで、このパーカーを着通した。出発前、誰かに「アウトドアはオシャレを優先させると命に関わるからな~」なんてぶっこいてこの様だ。結果ずぶ濡れになった訳だけど、このナイロンパーカー、撥水加工の割にはよく持ちこたえてくれた(BOREDの防水スプレー効果もあっただろう)。コートニー・バーネットが終わるぐらいまでは、大きな浸水を許さずに過ごせたのだ。撥水と防水の違いについては各自調べてくれ。


さすがにキネティクス限定モデルだけあって、10万人を動員したフジロックでも被りは発生しなかった。神はこの愚かな子羊を見捨てなかったのだ。意地の勝利である。これからは、このパーカーを自分のユニフォームにしようと思う。


そのコートニー・バーネットが2日目のベストアクトだった。小さな体とギターを振り回し、歪んだ音をコードストロークで掻き鳴らすさまが、おれの心のガソリンに火をつけた。昔からこういう女の子に弱い。最初はステージ後方で見ていたものの、そのエモーショナルな演奏に引き込まれてズンズン前の方に進み、最後は熱した鉄板の上のカツオ節みたいになってしまった。あとはお好み焼きになるだけだぜ。ならない。


それが終わってしまうと、足元に異変が起きた。とうとう浸水が始まったのだ。3,000メートル級でも使えるノースフェイスの完全防水トレッキングブーツがあっという間にお亡くなりになった。パーカーとパンツから伝ってくる雨水がタイツを通して上から侵入してきたのだ。ソックスがグショグショになった時点で勝負は見えた。GORE-TEXは偉かったが、足元以外が防水じゃないなんて事までは保証してくれない。


お目当てのマーティン・ギャリックスを前にして、おれは思った。「今日はこの辺で引き上げるか」と。実は前日、3つ目の「やらかし」を犯していた。ブヨに咬まれたのだ。マダニ対策は完璧だったが、ブヨにはそれが効かないらしい。防虫スプレーもタイツも無力なのだ。咬まれたふくらはぎの幹部が赤く腫れあがり、毒が回り始めていた。ブヨの毒は「後効き」だ。やられてから1~2日目がキツい。酷いと熱が出て3日は寝込む。雨は平気だが、熱はいかん。おれは確かな体温の上昇を感じながら、勇気ある撤退戦を選択した。ここで討ち死にしてはいけない。


三国屋に帰還するとマツバラ師匠がすでに戻っており、完全防水装備に着替えて再出撃する気満々のご様子である。おれはそれを最敬礼で見送り、ガラガラの浴場へと向かった。そしてノースフェイスのブーツにホッカイロを詰め込み、明日の完全復活に向けて準備を始めた。23時を回るころ、ミクニーズの戦士たちが次々と帰還。この日はフジ史上最大の大雨という事で、みな満身創痍だった。洗濯物で彩られたこの部屋は、まるでベトナム難民キャンプのようだった。


祭りも最終日。いよいよ狂乱の3日目を迎える。



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