フジロック備忘録:2

最終更新: 2019年9月1日

午前10時を回った頃だろうか。


おれたちは苗場の地に降り立っていた。天気は薄曇り。事前予報では雨だったのでこれは嬉しい誤算だった。チェックインは14時からなので、三国屋の隣にある土産屋に荷物を預け、いざ会場へ。実はここでもやらかしが発生していた。おれの主装備(主に雨具など)はほぼ全てバックパックの中だった。はやる気持ちや段取り的なバタバタも作用して、一切合切を置いてきてしまったのだ。本日の装備はウェットティッシュと財布しか入っていないヘッドポーターのウェストバッグのみだ。イス?イスはさすがに持ってるよ。忘れる訳ねえだろ。忘れた。いまディーゼルのあいつが玄関で息絶えた。



そんなほぼ手ぶらヌーブラスタイルで乗り込んだ(おれだけ)我々ミクニーズ、まずはグリーンステージの後方に陣取り基地をこしらえた。基地と言ってもそれぞれのイスを設置し、レジャーシートを敷いただけの簡素なものだ。帰る場所は必要だが取り過ぎてはいけない。ルールではなくマナーの問題だ。何にせよ、ここからがフジロック祭りの始まりである。拠点が完成したミクニーズは瞬時に散り散りとなり、各々がクレイジーなジャーニーを繰り広げる事となった。


おれはミギーもヒダリーもわからないミクニーであったので、とりあえずの措置としてユウシ君についていく事にした。行先はフィールド・オブ・ヘブンの中村佳穂だ。この人はhoshiotoでも見たことがある。というかユウシくんがフジロックで感銘を受けて呼んだのだそうだ。あれからステージはラージに、本人も事務所だかマネージャーだかがついて連絡が取りづらくなったとこぼすユウシくんはとても嬉しそうだった。後でツイッターを見たら「中村佳穂で泣いた」とか書いてた。いくら何でも泣くのが早すぎるだろう、と思った。


途中でステージを後にしたおれは、ぶらぶらと会場を散歩することにした。地図を開けば早いんだが、つまりめんどくさい。あてもなく会場をさまよい、色んなステージをつまみ食いした。気になるのは携帯がちょいちょい圏外になる事だ。さてはdocomoは「使えないほう」のキャリアだったか?そうしているとジプシー・アヴァロン付近でユウシ君と再会。これも何かの縁、折角なのでガイドしてもらう事にした。おれの履歴では、次に見たのはオレンジカフェの「ポセイドン石川」となっている……。彼について言及するのは避ける。吐かないでヘロン。


その後はREDさんたちと苗場食堂でステーキを喰らったり大道芸のフレディ・マーキュリーで大いに盛り上がったりして時間を無為に過ごした。おれは21時からのケミカルで燃え尽きるつもりだったので、すっかり体力温存モードだ。どんなアーティストでも、うっかりステージ前方に行けば沸騰した鍋の中のエビみたいに踊ってしまうので深追いはしない。


不意に誰かが「ユウゾウ出るぞ!」と口走り、辺りがざわめき始めた。誰だ?と思ったら加山雄三。数年前に自己所有の豪華クルーザーが燃えたことでニュースになった、その人であった。生きてムーヴする加山雄三を見た!あと脇でギター弾いてたdipのヤマジカズヒデ(大ファン)がスーツだ!という以外の感想はなかったが、大変珍しいものを観た。幸せだなあ。船が燃えたんだなあ。


続いてはジャネール・モネイ。アメリカのショウビズ界を代表するディーヴァだ。小さな体から繰り広げられるパワフルなパフォーマンスに口が空いたままだった。そして、今は亡きプリンスのパープル・レインのギターフレーズが鳴った時、おれの興奮はピークに達した。思わず隣で見ていたREDさんに「パープル・レインっすよ!」と話しかけ「わかったわかった、知ってるよ」ぐらいの面倒くさそうな顔をされてしまったが、そんな事はすぐに忘れる(覚えてる)ぐらい圧巻のステージだった。ジャネールの姿に、病める国アメリカ合衆国を見た。


夕方になって、グリーンステージの人口密度が高まり始めた。ELLEGARDENだ。ユウシ君によると初日ソールドアウトの原動力はこのバンドじゃないかという事だったが、それも納得の人気だ。名前こそ知っていたが見るのも聴くのも初めてだ。基地で椅子に腰かけて見学させて貰ったが、近頃のおれにはこういう縦ノリバンドのリズムがどうも体に合わないらしい。というか昔からメロコアっぽい感じがダメなのだ。知らないなりに合せようと模索しているうちに眠気が来て気絶してしまった。ELLEGARDENで寝る。それもフジロック。


心地よい睡眠から意識を取り戻し、すっかり暗くなったら、そう。お目当てのケミカル・ブラザーズである。体力を温存しておいてよかった。ユウシ君と二人でモッシュピットに突撃する。おれはケミカルで育った(誤解を与える表現)ドラッグ・ボーイ、ドッグ・ボーイ、ダーティ・ナム・エンジェルボーイだ(それはアンダーワールドだ)。このリズム、このバイブス、やっぱりブレイクビーツがおれの体に一番馴染む。 夥しいスモーク、紙吹雪、ドープな映像演出。右も左も踊る阿呆だ。ああ、最高、最高だぜ。SwoonからNew OrderのTemptation、そしてStar Guiterへ。魂のビッグバンが発生し、おれは苗場の星屑になった。


実はこの後、レッドマーキーで夜を明かそうと思っていたのだが、ケミカルで大満足してしまったおれは早めに終了して三国屋へ帰還。その後も感想戦などを交えてそれなりに盛り上がったが、おれは燃え尽き感から「ケミカル最高」しか言う事がなく、さながらヤベえ薬物中毒者のようだった。こうしてフジロックの1日目が終わった。


薄れゆく意識の中で、基地を撤収するときに聞いたイザキョウの「トム・ヨークよかったよ~」が虚しくこだました。キャベツ太郎はバッグの中だし、おそらく粉々に砕けた。星屑のようにな。




#Fujirockfestival2019

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